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August. 2019
この建物の中にスターバックス(以下スタバ)があると思う人はおそらくいないと思う。「イタリアにはスタバが無いの。」と言うと私の日本の友達は「ええっ、無いの??」と決まって驚いていた。そう、昨年の秋までミラノ及びイタリアにスタバは無かった。イタリアにおけるスタバの1号店は通常の店舗ではなく、大型の焙煎機が導入された店舗内で、焙煎・抽出されるまでの様子を体感することができるだけでなく、コーヒーのスペシャリストやマイスターと会話しながら、好みの豆やローストの方法を選ぶことができるというスターバックス・リザーブ・ロースタリー。現在、世界で5店舗のみ。(今年、東京の中目黒に5店舗目がオープンした。)ここはその昔ミラノの郵便局本局があった場所で、長い間使われていなかった建物。一瞬にしてスタバだと分からないのは、イタリアにおけるスタバ店舗のオープン計画が発表された当初から「イタリアのコーヒー文化の終わり」や「文化侵略」などの批判の声があがり、数々の反発や抗議を受けた所以か。いや、もしくは歴史あるイタリアの建築物の中にイタリアにおいて新感覚コーヒーを提供するスタバがあるという意表をついた演出を狙ったものかもしれない。
Chikako Gowa(Instagram / chikakogowa)
通訳/クリエイター
大学在学中NYへ交換留学期間、フェアチャイルドパブリケーション広告部にて インターンシップ、パーソンズスクールにてファッション分析について学ぶ。 卒業後、某仏外資系企業に就職。結婚を機にイタリアへ移住。アパレル業界の通訳、2012年よりsen (www.sen-factory.it)のファウンダー兼クリエイターとして活動。彩り豊かな毎日を楽しむ三人の女の子のママ。
世界各地に進出しているスタバが何故イタリアに存在しなかったのか。それはイタリアにおけるバール文化とエスプレッソ及びエスプレッソに付随して生まれた独自のコーヒー文化が関係していると言われていた。 バールとは、コーヒーをメインとし、その他のドリンクやお酒、軽食を提供する飲食店のことで、出勤前の朝食、午前11時のコーヒーブレイク(ミラノの習慣)、昼食後の眠気覚まし、夕食後特に男性達が友人達と集い暇つぶしをする(これはどちらかというと田舎町のバールに多い習慣)というようにバールはイタリア人の生活に欠かせない存在だ。 イタリアのバールは個人の自営業であり、街のいたる所にある。外資のコーヒーショップチェーンの介入によってこれまでの競争様式を一気に破壊される可能性を懸念した。
イタリア人の国民的ドリンク、カッフェ・エスプレッソ。高圧で抽出し、かつ分量が少ないため、濃厚で苦味があるのが特徴であるエスプレッソ。 イタリア人にとってコーヒーは、エスプレッソ。エスプレッソに付随して時代を追うごとに生まれたカッフェ・ラッテやマッキアート、そしてカップチーノ。スタバでも同じ様な名前のドリンクがあるが、イタリアのそれとはかなり違う。エスプレッソが大好きなイタリア人の中にはアメリカンコーヒーを「汚い水」(それは言い過ぎだと思うが)と表現する人も少なくない。 「25万以上のコーヒーの味わってください。世界で最も優れたアラビカ豆のたった3パーセントが、スターバックスブランドコーヒーに使われています」と書かれた掲示板。コーヒー豆にこだわっていることが窺いしれる。
リザーブ・ロースタリー ミラノ店の床は個人的に好きだ。このロケーションに決めるまで何軒もの物件を検討したという現CEOのシュルツ氏は、80年代初頭にミラノのバールで味わったエスプレッソに感銘を受け、帰国後エスプレッソ主体のドリンクをスタバで提案。その後一度スタバを退社して、自らエスプレッソ主体コーヒーショップを立ち上げた。イタリアのバールでは「立ち飲み」が主流だが、それを踏襲するような「テイクアウト」主体の販売が人気を呼び、スターバックスと商標を買収するまでになったとか。つまりスタバのコーヒーは、イタリアのエスプレッソ文化、そしてバール文化に影響を受けて出来たものなのだ。シュルツ氏が初めてエスプレッソを飲んだミラノの地にイタリアにおけるスタバ第1号店を延期に延期を重ねた後にオープンできた事は、感無量に違いない。
オープンしてもうすぐ1年が経つ。オープン当初ほどの長蛇の列は無いものの1号店はいつも沢山の人で賑わっている。ミラノには1号店以外にも普通のスタバも3店舗できた。まだあちこちに店舗があるわけでは無いからか、従来のバールにはこれまで通り常連客が足を運び、スタバは、海外及びイタリア国内からの観光客、若者達、WiFi 環境が整ったひろびろとしたスペースで仕事をしたり時間潰しをする人達が利用していて、うまく共存しているように見受けられる。
スタバが実際にオープンした今となっては、イタリア独自のコーヒーとスタバのコーヒーは比較対象にならないと感じている人も多いのでは無いだろうか。同じ土地で、本場イタリアンコーヒーとアメリカンコーヒーの両方を楽しめるということは、実は素敵なことだと思う。もちろん街のいたる所にあるバールがスタバに変わってしまうというような事が起きてしまっては悲しいが、これまで何十年もの間、出すものが美味しければそれでいいと言わんばかりにずっと同じ内装など何一つ変える事なく営業してきたバールにスタバの存在が何かしらの刺激を与えて、素敵なバールに生まれ変わる可能性もあるかもしれない。否定的に見ていたイタリア人がたとえ彼等にとってエスプレッソが一番であっても、スタバのコーヒーがどんなものなのか人生において一度経験してみるのも悪くないと思うし、逆に海外からの観光客の方達は、慣れない旅先においてスタバでホッとするのももちろん大切な時間だと思うけれど、イタリアのバールで是非イタリアンコーヒーエクスペリエンスも体験していただけたらいいなと思う。
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